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アメリカ連邦最高裁は24日、女性の人工妊娠中絶をめぐり「中絶は憲法で認められた女性の権利」と定めた49年前の判決を覆しました。今回の判決により、およそ半数の州が中絶に関する規制を厳格化する方針を表明。中絶容認派が強く反発する一方、中絶反対派からは歓迎の声が上がるなど国内の意見は大きく分かれています。
一部の州では中絶手術を中心に行ってきたクリニックが閉院を発表。最高裁の判決を受けて、アメリカでは女性の中絶権が合衆国憲法で保障されない方針へと変わりました。
アメリカでは1973年の「ロー対ウェイド」裁判がきっかけとなり、女性の中絶権を合憲とする法律を制定。同裁判はテキサス州の妊婦が訴訟し、「母体の生命を保護するために必要な場合を除いて人工妊娠中絶を禁止する」とした州の法律は女性の権利を侵害し違憲だとして訴えました。
裁判では原告の妊婦を「ジェーン・ロー」と仮名で呼んだことに由来し、相手の州検事ウェイド氏と合わせて「ロー対ウェイド」裁判と呼ばれています。当時の連邦最高裁は、「胎児が子宮外で生きられるようになるまでならば中絶は認められる」として、中絶を原則禁止としていたテキサス州の法律を違憲と判断。妊娠後期に入るまでの中絶を認める判決を下し、今日まで継続されてきました。
国内13の州当局は24日の判決を受けて、連邦最高裁が「ロー対ウェイド判決」を覆した時点で中絶を禁止する“トリガー法”をすでに制定していると表明。このうち、ケンタッキー州、ルイジアナ州、アーカンソー州、サウスダコタ州、ミズーリ州、オクラホマ州、アラバマ州では早くも「中絶禁止法」が施行されました。49年前の判決を最高裁が覆したことにより、他州でも同様の動きが広がることが予想されます。
今回の一報を受けたバイデン大統領はホワイトハウスで演説し、「今日はアメリカと裁判所にとって悲しむべき出来事がありました。最高裁の極端な判決により、女性の健康と命が危険にさらされるかもしれません。保守派の判事が多数を占める最高裁判所は、国民の感覚とあまりに乖離(かいり)しているかを示す判決です」と述べ強く非難しました。
さらにバイデン氏は、「政治家は市民の権利を守らなけばなりません。それを実現するためには、誠実な政治家を選挙で当選させることが最優先です。人口妊娠中絶を認める権利は全国民の投票にかかっています」とコメント。秋の中間選挙でバイデン氏が率いる民主党(与党)への支持を訴えました。
一方で、加熱する抗議活動について懸念を表明。「憤りを感じ憂慮したとしても、抗議は平和的に行うべきです。暴力を受け入れることなく、過激な行為は絶対に行ってはいけません」と呼びかけました。
世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」が1995年から行っている調査によると、アメリカでは人工妊娠中絶を「合法とすべき」と考える市民の割合が一貫して上回っています。今月発表された最新の世論調査も「合法とすべき」が61%を占め、「違法とすべき」の37%を大きく上回りました。
また、今月23日に調査会社「ギャラップ」が発表した連邦最高裁に関する世論調査では、「信頼している」との回答が25%にとどまり、昨年と比べ11%低下。最高裁が下した今回の判決により、アメリカの世論は二極化が進むと予想されます。
参考元:BBC NEWS